ワインツアーの報告;8月23日火曜日・その1

滞在3日めの朝、朝食の盛りつけはみなさんがかわりばんこで担当してくださり毎日それぞれのセンスが光っていました。

テラスから眺めた1階の窓の様子

みんなで朝食をとっているところに新聞社の女性カメラマンさんが写真撮影に。写真と記事は8月25日の朝刊に掲載、すでにブログにて紹介しています。
観光地巡りだけでないワインを軸としたドイツでの暮らしや人に触れる旅を企画している私を取材してくださるとのこと、ならばみなさんと一緒のショットを、ということになりました。
この日8月23日は私が30年前にはじめてヨーロッパに旅だった日でもあり、個人的記念日(*^_^*)素晴らしい体験ができた最初の旅でのご縁が今日に繋がっていることに改めて感謝したのでした。


きょうの目的地はバーデン地方、クライヒガウ地域にてオーガニックワインを手がけているクルンプ醸造所です。ノイシュタット・アン・デア・ワインシュトラーセから列車で1時間半。
私たちをブルッフサール駅に10時半に迎えに来てくださりまずは畑に連れて行ってもらいました。朝から気温がぐんぐん上がります。今年最高の暑さで日中は34度まで上昇。
「あと2時間したら暑すぎて畑にいけなくなるので早く来てもらってよかった」とクルンプさん。

畑に向かう途中、新しくこの春に植えたまだ背丈50センチくらいの葡萄の樹が目に入ります。「この畑は同僚の畑で、あの樹はこの5月に植えたものです、覚えておいてくださいね」
そしてしばらくいくと車を止めて下車「ここは私たちの畑でやはり今年の5月に植えた葡萄ですがこんなに大きく育っています」みると4ヶ月とは思えないほど空に向かってぐんぐん伸びています。
「通常、植え替えをするとワインを造るための葡萄を収穫するのに3年くらいかかるのですが手をかけて育てると翌年から収穫が可能になります」
葡萄の木に注ぐクルンプさんの眼差しは愛おしさに満ちていました。


今年の5月に植えたクルンプさんの畑の葡萄の樹。普通の状態の写真を撮っていないのでよくわからないかもしれませんが驚異的といっていい状態です。

再び車に乗り葡萄畑の中を走ります。次に降りたのはゲブルツトラミナーの畑でした。
淡いレーズン色に色づいている葡萄たちがお行儀よく並んでいます。「葡萄に日光がよく当たるように随時手作業で葉を落とします。この畑は4日前に作業をしたたばかりです。葡萄を食べてみてください」「あま〜い!」すでに食べて美味しい甘さでした。さらに3週間くらい葡萄が熟すのを待って収穫しデザートワインに仕上げるそうです。

さらに車に乗ってようやく「キルヒベルク」に辿り着きました。
美味しそうに黄色みを帯びた白葡萄がまるまると実っていました。
1990年に植えたヴァイスブルグンダーだそうで樹齢21年とのこと。
クルンプさんは「これからがようやくこの葡萄の樹の本領発揮です。樹齢20年くらいまでは準備段階ですからね」と嬉しそうに話していました。
慣習的には葡萄の樹はほぼ25年ごとに植え替えが行われるようです。樹齢を重ねると葡萄の樹につく房が減っていくので生産効率を考えて次の世代のために植え替えをするとのこと。
しかしここ20年くらい前から世界的に古木にこだわり50年、なかには80年を超える古木からあえてワイン造りをすることによってより複雑な味わいのワインを造ろうとする傾向があります。
もちろん日常気軽に飲むクラスのワインではありませんがそうしたものをたまには口にすることでワインの世界の奥深さ、素晴らしさにより深く触れることもできるわけでいろんな楽しみに出会いたいものですね(*^_^*)

「私たちのワインは葡萄の香りが高くその葡萄の持つ果実味の豊かさが特徴ですがそれを実現するためには絶え間ない畑の手入れはもちろんのこと注意深い葡萄の収穫も重要です。全てが手作業で行われるのはもちろんですが収穫も同一の畑で3回から4回に分けて行います。毎回よく熟した葡萄のみを目で確認して最良のものを手摘みし別々に仕込むのです」

そういえば2年前の買い付けの際、ソーヴィニヨン・ブランの香りのよさに驚いて「通常のソーヴィニヨン・ブランにはあまり感じられないトロピカルフルーツのような芳醇な香りはどこからくるのですか?」と尋ねると「通常の摘み取り時期とさらに熟すまで待って再度収穫したものを最終的に合わせて仕上げています」と教えてもらったことを思い出しました。

これまでのドイツワインは摘み取りの時のオクスレ度によって等級分けされて摘み取り時期の遅い、いわゆる糖度の高いものが上等、といった概念がありましたがクルンプ醸造所では新しい感覚でワイン造りをしていることになります。ドイツワイン法上のカテゴリーにこだわらずそうして造られたワインを自らの判断で3ッ星、2ツ星、1ッ星に分け、3ッ星は全生産量の10%前後のハイレベルのもののみとしているようです。
日本でのクラッシックなワイン愛好家の方の中には「アウスレーゼの方がカビネットより上等」といったドイツワインを等級別にとらえようとする方には理解しにくい世界となります。
飲まなきゃわからない、世界です。基本的にはすべてのワインにいえることなのですが。。。


今回みせていただいた畑は1978年にクルンプさんが最初に小区画購入した「キルヒベルク」でした。当時公務員として働きながら趣味で葡萄栽培から醸造にチャレンジしていたクルンプさんが独立して醸造家となるまでには数年の歳月が必要だったようですがその勤勉で研究熱心な才能を生かしてワインの造り手になってくれたことは私たちにとっても幸運なことだったといえると思います。
そして年々買い足して今では総面積30ヘクタールを所有しているそうでこの「キルヒベルク」にはカベルネ・ソーヴィニヨンメルロー、シラー、カベルネ・フランシャルドネといったフランスの代表的な品種も植えられています。

畑で聞く彼の話からは「ワイン造りの最も重要な要素は畑でいかに葡萄を理想的な状態で育てるかにかかっているということを実際に見て理解して欲しい」という情熱が伝わってきます。


畑を回った後、眺めのよいバルコニーのようなところで一休み、持参してくれたリースリングゼクトを開栓してくれました。香りが素晴らしく、切れのよい味わいのリースリングゼクト、私が個人的に大好きなゼクトです。味ももちろんですがよく冷やしてあってこの暑さの中でいただくのになんと美味しいのでしょう。みなさんの間からも「私たちのためにこんな風に準備してくださって有り難いですね〜」という声を伝えると、「準備をしてくれたのは妻のマリエッタ。僕は10時まで畑で作業をしていて大急ぎでシャワーを浴びてみなさんを駅にお迎えにいったのですから」と奥様とのチームプレーのよさを話してくれました。

「これまで畑での葡萄についてお話ししてきましたがみなさんにはこの葡萄畑全体の美しい景観も同時に楽しんでいただきたいと思います。そしてワインを飲むときにぜひこの景色を思い出していただきたいものです」とクルンプさん。

「ではそろそろ戻りましょう、お昼ご飯の支度が出来た頃でしょう。」つづく・・


キルヒベルクの畑で。